« 2021年2月 | トップページ | 2021年9月 »

2021年3月

あぢさゐいろのかほをして

あなたが死ぬとき

 

わたしは手をのばす

手はいつもハダカ

顔はいつもハダカ

手が顔にさはれないのは 何故

 

つめたい

われた頭から石膏のかす

唇から 白い粉のよだれ

 

もうひとりのわたし

わたしの死

わたしの罪

わたしの涙 にさはるのは

耐へられない   でも

 

死なないで

といふときがこんなに

目もくらむ愛にみちるときなら

死んで

 

生れた瞬間から禁断されたものを

かみくだいて

そのための白い粉と

そのながれるための 頬

 

              吉原幸子詩集『オンディーヌ』より

 

      *      *      *

 

わたしがこのわたしであると信じられていないわたしは、このわたしであったあなたの死を、少しだけ離れて見つめる。罪の意識と、変容の痛みを分け持ちながら。あるいは、あなたであったことの尊さに慄きながら。悲しみの涙を、そうとは認めることができないから、手は頬にさはれない。

 

« 2021年2月 | トップページ | 2021年9月 »