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小さな娘が思ったこと

 小さな娘が思ったこと

 ひとの奥さんの肩はなぜあんなに匂うのだろう

 木犀みたいに

 くちなしみたいに

 ひとの奥さんの肩にかかる

 あの淡い靄のようなものは

 なんだろう?

 小さな娘は自分もそれを欲しいと思った

 どんなきれいな娘にもない

 とても素敵な或るなにか・・・・・・

 

 小さな娘がおとなになって

 妻になって母になって

 ある日不意に気づいてしまう

 ひとの奥さんの肩にふりつもる

 あのやさしいものは

 日々

 ひとを愛してゆくための

  ただの疲労であったと

 

    詩集「見えない配達夫」(茨木のり子、1957年、飯塚書店)

 

       *      *      *

 

 フランスには、美しくあるためには苦しむこと Il faut souffrir pour être belle. という諺があると、習ったことがある。

 美と苦しみ。どちらも貴いもの。たぶん、似ているのだと思う。愛しているとき、あるいは耐えているとき、乗り越えようとしているとき、いつのまにかふりつもるもの。

 似ているのではなく、同じものなのかもしれない。

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