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わたしを離さないで Never Let Me Go

 カズオ・イシグロ著/土屋政雄訳(2005/06).わたしを離さないで.早川書房

 はじめに映画を見た。とても良い映画だったので、本を読んでみた。

 物語の背後で問われているのは臓器提供の倫理であるが、主人公の語りは特にそのことに触れる訳ではなく、育った環境と登場人物たちの心模様が描かれる。

 舞台はイギリス。へールシャムという名の寄宿学校で、「保護」されて、子どもたちは育つ。そこで彼らは将来「提供者」になるための教育を受ける。

 そのエピソードの数々。

 彼らは絵を描くことを奨励され、その目的は秘されるのだが、目的を明かされないことにより、さまざまな憶測の下で葛藤が生じる。「保護官」たちはそのことを知らない。

 善意により学校は運営されるが、その意図は世間に浸透し得ず、やがてへールシャムは閉鎖される。

 さまざまな憶測の一つ。本当に愛し合っているカップルは、「提供」を猶予されるという噂が卒業生の間で静かに広がりつづける。トミーは、絵を描くことが奨励されたのは、カップルの「愛」を確かめるためではないかと考えるが、そうではなかった。

 主人公キャシーは、「提供者」を猶予された「介護人」であった。彼女は親愛なるトミーや、友人ルースの思考を丁寧に語る。

 適切な観察と描写は優秀な「介護人」ならではのことだろうが、それは生来の性質であった。

 世間から隔離され、ある倫理を身につけ、それでも誰かを愛することを願う。噂は彼らの内から生じた、否応のない叫びだったのかもしれない。

 キャシーは「わたしを離さないで」という歌に魅かれる。なぜ魅かれるのか分からないとくり返すが、それも、愛し愛されることへの切望から生まれた感情だったのだろう。

 ありとある存在は愛を求めている。どのような境遇に生まれ、どのような立場に置かれても。

 主人公に語られる毎に、頁がめくられる毎に、アルバムの中の無数の写真のように、さまざまな人間情景が映し出される。一枚毎の裏にも、折り畳まれた絵が現われる。幾重にも、幾重にも。それは無限につづいている。

 この物語は、私たちの心の原風景を映し出しているようだ。それはかつて見たことがあるようで、本当は初めて見るような、魅力的な何かである。

http://www.youtube.com/watch?v=LE9ny5VDt1c

013

(ジャングルジムのある風景)

 

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