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嘆きのピエタ

 愛する息子が死に至る。母親は復讐を果たそうとする。

 息子が死んだのは借金の取り立てによる。母親は、その取立人への復讐を企てる。

 その復讐とは、肉親の死を味わわせるということ。そのために、母親を知らずに育った取立人の母親を名乗り、信じさせ、情愛を植え付けた上で、自らは取立屋に殺される、という筋書きを用意する。

 物語はほぼ筋書き通りに進行した。しかし、それは復讐にならなかった。

 母親自身は、取立人に愛を持ってしまったのだ。

 取立人も、母親という愛を知ることになる。それは彼が生まれて初めて知る幸福だった。自身の中に愛情が生じたということが、彼にとっての幸福である。

 その幸福を知らせてくれたのが、復讐のために近づいた母親と名乗る女だった。

 女は、亡くなった息子に着せるセーターを、復讐する相手の前で編み続けた。

 物語の終り、投身する前に「なぜこんなに苦しいのか」と女は独白する。母さんを殺さないで下さいと拝み縋る息子役を眼下に見て。

 息子役に情愛を齎し、母親役にそのような切ない感情を与えたのは、神の慈悲であると、映画は語る。

 さて、復讐を試みた女はどの瞬間から取立人に愛情を抱いたのだろうか?

 それは、じつは復讐に内在していたのではないか?

 復讐とは恨みを晴らすことである。しかし、本当のところ、その行為自体とは、相手への慈悲ではないのか?

 本当に憎むのなら無視するだろう。

 復讐とは? 人の行為であるなら、必然的に善を目指す。復讐という名の、それは愛である。だから彼女は切なかったのだ。

 復讐は、果たされることは、決してない。物語は、激しかった映像とは裏腹に、静かに終わる。人々を優しく包み込もうとするかのように。

016

(夕暮れの海辺で) 

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