« 語りきれないこと | トップページ | それから 夏目漱石 »

こころ 夏目漱石

 夏目漱石(1914).こころ.新潮文庫

 罪の意識により生きる。その点でホーソーン『緋文字』に似ている(このブログの「緋文字 The Scarlet Letter(1850)」を参照のこと)。

 自らの罪を誰にも明かさず、それゆえ咎められることもない生き方とは、最も苦しい生であろう。なぜその生を選ぶか?

 贖いのためと、主人公は考えていたかもしれない。利己心のために友人の心に一撃を加え、死に至らしめた、その罪の意識はどう贖っても贖いきれない。だから、自らに解放を与えない生を辿るしかない。

 それは選んだのではない。そう生きるしか他に途はなかった。そうして、次第に精神は疲れ、生来の思慮深さもあり、厭世に生きる。

 人の心とは何か?

 罪の意識があっても、それを気にしないようにして生きる人もあるかもしれない。他のことに昇華する人もあるかもしれない。それは心を護ろうとするから。護ろうとするのは、その弱さが予め知られているから。

 しかし心はもっと広い。無限と言ってもいい。その予覚があるなら、突きつめるだろう、自分を際果てへと落とすだろう。主人公はそのような人で、若さゆえに友人Kの弱さに思い至らなかったから、一撃を加えたりもした。そして、その罪を自らの生として引き受けた。

 引き受けて、それを創作活動の原点として生きる術もあろう。作家のように。しかし、それさえもしない。ただ己れを責め続ける。正確には、何かしら大きな力に責められつづける。

 そして不図した弾みに死に及ぶ。

 生きることに意味を見つけたり、そのことで自分(の罪)を誤魔化したりしないところに、主人公の清潔さを見る。その生き方を尊いと感じる。それは作者自身の生き方の表れかもしれない。

004

(銀木犀たち)

 

 

 

 

« 語りきれないこと | トップページ | それから 夏目漱石 »

読書」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/391404/47702223

この記事へのトラックバック一覧です: こころ 夏目漱石:

« 語りきれないこと | トップページ | それから 夏目漱石 »