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それから 夏目漱石

 夏目漱石(1909).それから.新潮文庫

 『こころ』同様、奥行きの広さを感じる。いつまでも心に残る作品である。

 それは主人公の意識の深さに拠るようだ。

 深さは、社会の慣習、制度や個人の利害(保身)による生に対して、主人公代助に意識されている「自然」の保持によると考えられる。

 多くの人は、現代においても、生きるために、食うために仕事をしている。しかし、代助は「生きるとは何か」を問うている。問うているから、その答えが明瞭に意識されないから、生きることができないでいる。

 生きることができないながらも、なおそれを問い続けている。

 問いの中から、不意に浮かび上がってきたのが、三千代への愛である。彼にとってその愛は「自然」である。そのためには世間からのどのような石礫も意味をなさない。石礫は彼をすり抜けるしかない。馬鹿と言われようが、狂っていると思われようが、そのようにしか生きえない。

 代助の生は、終焉に近づいただろうか。否、彼はそこに自身を賭けたのである。そこに生きることが、彼の生である。

 それではこの世は成り立たないと、人は言うだろうか。けだし、成り立たないかどうかは、生きてみなければわからない。人が可能性を求めて一歩でも進んで行く者を侮蔑するのは、彼が怖いからに相違ない。得体のしれない物に怯えているのである。

 代助は、おそらくだれの心にも存在するのだが、多くは意識されていない。

 悩みながらも、躊躇しながらも、「自然」を探り当てて生きる姿は、むしろ私たちの生の支えとなるだろう。彼もまた、そのように誠実に生きたのだと。そして、私は私の生を歩もうと。

 そのように、彼は私たちの心の底に降りてきて、いつまでも優しく寄り添っている。

002 

(浮かび上がるやさしさ)

 

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