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詩を読む会(3)

 つづけて、詩集より。 

   星々

 むすこよおぼえておりますか

 やわらかだったおまえたちと

 泣きむしだったかあちゃんと

 はじめてでかけた旅先での夜

 とうちゃんはもううれしくてうれしくて

 お酒を呑んでまいあがって

 かわるがわるかるがると

 おまえたちかたぐるまして

 旅館の外まで飛び出して

 おおほいほい おおほいほい

 これは素敵な機関車だ

 裾もはだけた浴衣姿で

 ふりむき嘲る人らを尻目に

 温泉街の路地から路地へと

 走りまわったものでしたね

 最初のうちこそはしゃいでいた

 おまえたちもだんだんおとなしくなり

 とうちゃん着いた?

 まだ着かない?

 その首根っこにしがみついて

 おしまいころには可哀相に

 かおあおざめておりましたね

 こわかったんだね

 ごめんね

 怪我などさせずほんとによかった

 いまにして

 むねなでおろしているのだけれど

 そのむねはもうはやしなび

 かたはばも徐々にせばまり

 父ははやすっかりおとろえ

 いつのまにやらしらないところで

 その子らはうつくしい少年となり

 いつでもあんぐりくちあけて

 みあげてくれたどんぐりまなこも

 あとひといきかふたいきで

 父の眼とおなじ高さになるんだな

 おおほいほい おおほいほい

 とてももう

 おまえたちをかたぐるまなどできやしない

 これはもうだれがみたって

 素敵な機関車なんかじゃないが

 おまえたちよ

 おぼえておおき

 とうちゃんはますますおとろえ

 やがては朽ちて

 おまえたちの眼をきらきらみあげる

 あたらしい星々の光がおまえたちへとどくころには

 もうあとかたもない

 かもしれないけれど

 おまえたちよ

 おぼえておおき

 おおほいほい おおほいほい

 とうちゃんがあとかたもなくなくなったずうっとそのあと

 おまえたちはまたあの号笛を聞くだろう

 おまえたちはまだあの首根っこにしがみついてたことをしるだろう

 とうちゃんにすこしにているけぶかなものに

 かたぐるまされてるおまえたちに気付くだろう

 それはもうでもとうちゃんじゃない

 けれでもやっぱりとうちゃんなんだ

 けれどもそれはとうちゃんじゃない

 おおほいほい おおほいほい

 おまえたちの子をかたぐるましたおまえたちをまたかたぐるましたとうちゃんをまたかたぐるました……

 数珠つながりの夜通し運行

 終点なんかどこにもないのだ

 うれしくて

 うれしくて

 やむをえなくて

 まわりはじめる

 まわりつづける

 まわりやまない夜行の灯火―星々が

 おまえたちをそっとみおろし

 ウインクする

 どこかみおぼえのあある眼差しが

 おもいがけない幾重もの

 幾重ものウインクをいちどに投げる

 ** 池井昌樹「晴夜」より。父から子へつづいていく愛情、「数珠つながり」の。何億光年もの過去からの光を放ちつづける星々。その光の下での、「うれしくて うれしくて」のかたぐるま。温かな詩。今ここより遥か遠い場所へ私たちを連れていき、戻してくれる。

   ただいるだけで

 あなたがそこに

 ただいるだけで

 その場の空気が

 あかるくなる

 あなたがそこに

 ただいるだけで

 みんなのこころが

 やすらぐ

 そんな

 あなたにわたしも

 なりたい

 ** 「相田みつを美術館」より。相田みつをの作品が好きな人が多い。何でもない言葉だけれど、心が落ち着く。家のトイレにはってある。好きな人が多いのはなぜだろう。読む時々で、印象が変わる。詩のジャンルがあり、相田みつをというジャンルがある感じ。

 (つづく)

036

(仙台市若林区二木 津波の跡に咲く)

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