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日めくりカレンダー

 めくってはあるけれど、ある日から剥ぎ取られていないカレンダーがある。

 どのような思いで、剥ぎ取られないであるのか。

 農業倉庫の前には、いろんな物が積み上げられている。農機具、苗床のパレット、机、古いレコード、幾多の置き物、火鉢、などなど。

 「車に乗っていて流されて、屋根によじ上り、電柱から伸びている線に掴まって助かった」と語ってくれた人もいる。

 「波が来そうなので、車いすのおばあさんを避難所につれて行き、戻ってきたら波が来た。それでそこの玄関の前の松の木に上って助かった。流れて来る人を何人か助けたけれど、届かずに助けられない人もいた」と語る人も。

 壁には波の痕が数本の線となって残っている。上の線は大人の背丈くらい。波が退き、床下には塩混じりの泥が溜まり、樹木が流れ着き、ビニールハウスは潰され、小屋は傾き、車は流され、田畑は勿論、何もかもが使い物にならなくなった。人も亡くなった。

 途方にくれた日から3か月近く。兆しはまだ見えず、記憶が逆巻いている。

 この辺り(若林区二木)は、市が公表した復興ビジョンによると「集団移転や居住地の集約化などにより防災対策を図る地区」とされ、家は流されていなくても住めなくなる可能性が高い。だからこうやって一緒に片付けをしても、改修には踏み出せないでいる。

 人柄の良い、他者を優しく気遣う農家の主は、別れる時、いつまでも手を振ってくれた。

 この農作地の再興の見通しが生まれ、あるいは自らの意思が熟するまで、静かに「時」を待つ。日めくりが剥ぎ取られないのは、その意思の表れではないかと、私には思えた。

015

(2011.6.1 若林区の農家にて)

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