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2010年10月

猫を抱いて象と泳ぐ

 小川洋子(2009).猫を抱いて象と泳ぐ.文藝春秋

 チェスの名手の物語と聞いて、最初に連想したのはヘッセの『ガラス玉演戯』だった。

 確かに、盤上の駒の進め方がその人の性格、経験、考え方そのもの;であること、駒がその人の手を借りて動くということ、動きが物語であること、など、ガラス玉演戯にかなり近いものを感じた。

 猫とは、ポーンという名の白黒斑の猫、象は、インディラという名のデパートの屋上から降りられなくなり一生をそこで過ごした主人公の友人であり、ビショップを意味する。

 「猫を抱いて象と泳ぐ」とは、ポーンとビショップを巧みに使いチェスをするということ。それは主人公リトル・アリョーヒンの人生そのものだった。

 すでに肉体がこの世にない物(インディラ、ミイラ)に愛おしさを感じるのは、自らの永遠を生きることである。

 私は、私に親密な、声なき物たちと共に生きる。そのことで、私は私の生に限定されないあらゆる位相を生きることになる。

 物たちに動かされて、なお自在であること。

 チェスの詩を生きること。

 より遠い場所まで思いを馳せることのできる、穏やかな、優しい小説である。

013

(日光を浴びて)

嵐が丘 Wuthering Heights (E.ブロンテ)

 最も印象に残ったのは、キャシーがネリーにエドガー・リントンとの結婚について相談する場面である。

 エドガーは良い人、結婚しようと思う。でも、うまく言えないけど、違うの。心が違うと言っている、魂が違うと言っている。

 理屈ではなく、心が、魂がどう感じているか。その心とは、魂とは、キャシーを超えていて、キャシーをしてキャシー足らしめているもの。

 魂なしには生きられないとも、キャシーは言う。

 私はヒースクリフなの。

 そう言うとき、彼女の「私」は彼女の心、魂である。

 それは対象との境界を知らない、荒野に生きる心、魂である。

 キャシー、ヒースクリフの物語は、人は個に生きるけれども、個を超えてしまっていることの矛盾を映し出している。

 目に見えるものだけがこの世ではなく、目に見えないものとの絶え間ない行き来に、生はあるのだと、言っている。

 魂なしには生きられない。ある日ふと魂との疎遠を感じたヒースクリフは、その瞬間に生を終える。

 そして新たな生命たちの躍動がはじまる。

 いつまでも(永遠に)心地よい余韻の残る物語である。

 《My great miseries in this world have been Heathcliff's miseries, and I watched and felt each from the beginning; my great thought in living is himself. If all else perished, and he remained, I should still continue to be; and, if all else remained, and he were annihilated, the Universe would turn to a mighty stranger. I should not seem a part of it. My love for Linton is like the foliage in the woods. Time will change it, I'm well aware, as winter changes the trees - my love for Heathcliff resembles the eternal rocks beneath - a source of little visible delight, but necessary. Nelly, I am Heathcliff - he's always, always in my mind - not as a pleasure, any more than I am always a pleasure to myself - but, as my own being - so, don't talk of our separation again - it is impracricable; and -》

002 

(霧のかかる山 我が家のベランダより)

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