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なつかせる

 そのとき、キツネがあらわれた。

 「こんにちは」とキツネがいった。

 「こんにちは」とちいさな王子は礼儀ただしくこたえたけれど、ふりかえってみてもだれもいない。

 「ここだよ、リンゴの木の下だよ……」

 「きみはだれ?」ちいさな王子はたずねた。「とてもきれいだね……」

 「ぼくはキツネさ」とキツネがいった。

 「おいで、いっしょにあそぼうよ。ぼく、とってもさびしいんだ……」

 「きみとは遊べないな」とキツネはいった。「だってぼく、まだなつかせてもらっていないもの」

 「ああ、それはごめんね」とちいさな王子はいった。

 でも少し考えてから、つけくわえたんだ。

 「『なつかせる』って、いったいどういう意味なの?」

 「きみはこのあたりの人じゃないね。なにをさがしているんだい?」

 「人間をさがしているんだよ。『なつかせる』ってどういう意味なの?」

 「人間は猟銃をもっていて、それで狩りをする。まったく困ったもんだ! それから、ニワトリも飼ってる。それだけが取り柄さ。きみ、ニワトリをさがしてるの?」

 「ううん。友だちがほしいんだよ。『なつかせる』ってどういう意味なの?」

 「それはね、つい忘れられがちなことなんだよ。『きずなを作る』という意味なんだ」

 「きずなを作る?」

 「そうだとも。ぼくにとってきみはまだ、たくさんいるほかの男の子たちとおなじ、ただの男の子でしかない。ぼくにとっては、きみがいなくたってかまわないし、きみだって、ぼくなんかいなくてもいいだろ。きみにとってぼくは、ほかのたくさんいるキツネとおなじ、ただのキツネでしかない。でも、もしきみがぼくをなつかせてくれるなら、ぼくらはお互いが必要になる。きみはぼくにとって、この世でたった一人のひとになるし、きみにとってぼくは、この世でたった一匹のキツネになるんだよ……」

 「だんだんわかってきた」とちいさな王子はいった。

         サン=テグジュペリ/野崎歓訳(2006).ちいさな王子.光文社古典新薬文庫

      *      *      *

 なつかせる、という言葉がいい。意味もいい。

 そのような関係を、人は求めている。

 相手は、人や動物だけでなく、場所や、物や、本や言葉だったりする。時間がかかることもあるし、出合った瞬間から、ということもある。

 親密なるもの。

 そして、いちどなついたら、忘れることはない。

 相手を、つよく抱きしめる。そうすることで、人はひとつ成長する。

 夢みる、とも言う。

 懐かれ、孕まれた思いは、どこまでも拡がり、いつもここにある。

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