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石上玄一郎

 石上玄一郎著作集(1970).冬樹社.

 情景描写の静謐、美しさに魅かれる。とくに東北地方の自然の情景、そして子どもの情景など。

 近代科学技術の進歩に対する懐疑、小ざかしい者たちへの嫌悪、人の精神の不思議への限りない興味、伝承への愛着が、感じられる。紙背に、作者の思いが蠢いている。

 「針」において、浄瑠璃語りの女の語る自身の物語に見え隠れするのは、人の心の奥に棲む物たちの、様々な思い(固有)である。

 〈まことにこの世の一切は神と申しますか仏と申しますか、そういうおおいなるものの語るひとくだりの浄瑠璃なのでございましょう。ひとびとはそのなかで傀儡(くぐつ)のようにはかなくも愛憎し、哀歓し、怒ったり、とりすましたり、高慢ったり、泣いたり、笑いさざめいたりしながらいつまでも同じことをくりかえしてゆくのでございます〉(本書 p.77)

 その認識を有していながら、なお「思い」たちに寄り添い、それらの真の姿を見極めようとしている。

 「鼬」の少年の頬に光る霜、「自殺案内者」の看護婦の言葉に宿るあるリアリティ、etc. 魅力的な物たちが、「ここ」では自由に、思い思いに暮らしている。

 作者は昨年(2009年)10月に、99歳で亡くなった。高校(弘前高校)では、津島修治(太宰治)と同級であったらしい。

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