« 他なるもの | トップページ | 津軽 »

人生は愉快だ

 池田晶子.人生は愉快だ.毎日新聞社.2008.11.

1. 池田さんの事

 池田晶子さんの本を初めて読んだのは12年前のこと。本屋で何気なく手にとってみたところ、内容がすごく分かり易く、言葉が瑞々しいのに感動した。本の題名は『睥睨するヘーゲル』。一気に読み終えた。

 それから図書館へ行き、『事象そのものへ!』『メタフィジカ!』『オン!』『考える人』『メタフィジカルパンチ』を借りて、これらも一気に読んだ。

 あまりに楽しい読書体験だったので、出版社気付で池田さんに感想を書いた。とても楽しかったと。そして、それぞれの本に簡単なコメントを書いた。

 すると、投函して3日後に返事が来た。そのように読んで下さるのが一番嬉しい、宇宙について考えているとキリ果てがない。それから、季刊仏教に連載を始められたこと、いま魂について考えているとのこと。それで、季刊仏教を読んだ。考える息遣いがリアルに感じとれた。

 その直後に、池田さんから海辺の洞窟を案内される夢を見た。ここはこうなっているんですよ。説明が丁寧でわかりやすかった。洞窟を出た私は、美しい夕焼けを見た。その時、今ここは夢の中だ、とするなら、あの夕焼けの向こうが現実なのだ、夢から現実を見たらどのように見えるのだろうと思った。その時目が覚めた。

 以来、3度ほど、感想を書き送り、返事を頂いた。インドの牛の絵葉書も頂いた記憶がある。読者を大切にされる方なのだと思った。

 2003年の4月、池袋のジュンク堂書店で講演とサイン会をされた際に大阪から訪ねた。講演は満席で入れなかったため、本にサインだけ頂いた。最後尾に並んでサインを頂いたのだが、その時、私のことをご存知ないはずなのに、「わざわざすみません」と仰った。本屋を出て、近くのスターバックスで通りを見ながらコーヒーを飲んでいたら、本屋の方から歩いてくる池田さんと目が合った、気がした。

 それからはあまり読んでいなかった。そして、2007年3月の初め、駅で週刊誌を捲っていたら、池田さんの文章が目に入ってきた。題は「墓碑銘」。最後の一文、「さて、死んだのは誰か」。

 その直後に、新聞で訃報を目にする。

 誠実な方、という印象が強い。論理と倫理が、言葉に過不足なく表れ、生きることと考えることが即応している方だった。思考が素直なので、感性が高い、文が生き生きとしている。思考の息遣いを伝えようと、されていたかもしれない。

 

2. 死に就いて

 上記、池田さんの死の刻に、私は何かを感じとったのかもしれない。だから、最後の連載の文章に出合った。偶然かもしれないが。

 大学を出たばかりの4月に、夢の中に、懇意にしていた教授(荻原明男氏)が出てきた。「良い本が出ましたよ、一緒に読みましょう」。夢の刻は教授が亡くなった瞬間だったと、その日の午後友人の連絡でわかった。刻の一致は偶然だったろうか。

 上記死の刻に私は何かを感じとっていた、と考えたくなる。何を感じたのか、わからない。どの次元で感じたのか? 海辺の洞窟の夢と同じ次元、つまり思考の呼応によるのではないか、と考えてみる。

 かつて呼応したことのある思考への感応。それは時間を超えている。その感応とは、存在の構え、位相の近似かもしれない。思考の感受性は、全宇宙に亘り、過去も未来もない現在に満ちている。その、蝶の飛翔のような、海の微風のような所作に、あらゆる存在は感応しているのかもしれない。

 意識的であれ、無意識にであれ、それらの感応に関与すること、それが生きることであり、考えることかもしれない。

 死の刻とは、特別なものではなく、つねに在る者たちにはありふれた遣り取りかもしれない。そこにいる、と同時に、別の場所で笑っている。

 池田さんの『人生は愉快だ』という本は、彼女の死後に出された本ではあるが、彼女の思考は存在し続けている。本という媒体を通してというより、げんに今も、身近に感じられる、いつでも対話は可能である。

 私たちの生は、ほんとうは、そのようなもの、そのような構造をしている。また、ゾシマの兄の気付きのように、私たちはあまりに幸福に満たされている。

 死など、ほんとうは、どうでも良い。

 この本の思考を、感じてみよう。

« 他なるもの | トップページ | 津軽 »

読書」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/391404/29856505

この記事へのトラックバック一覧です: 人生は愉快だ:

« 他なるもの | トップページ | 津軽 »

2017年7月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31          
無料ブログはココログ