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山里

鄙びたバス停から二十分ほど坂道を上ったところに在る

養蜂と蜜柑栽培の農家の 踏み固められた土間 の炊事場から

微かにトリの声が聞こえた

 

すぐ近くの 杜の前の広間では

子供たちが数人

鳳仙花の花びらをすり潰していた

 

一人の少年はそれを自分の手の爪に指の腹でぬった

仄かに 朱い花びらの滓の匂いがした とき

彼は

傾きそめた日の 光のとどかない背後の森の影に

鳥たちのささやきを聞いた

 

日の暮れるころ 丘の中腹

祖霊の安寧石の前に 彼は線香をささげた

肖像写真でしか知らない 母の母のつれあいの小さな姿態 を頭で描きつつ

母の母の 土の薫りのする声を間近に感じながら

その瞳の奥に在る 昔日の夢を想いながら

 

日が暮れて

母の弟の嫁の 明るい蜜柑色の笑顔に促されて

座敷に並べられた膳のひとつ

いとこたちの声の間に 彼は席をとった

 

とろける白い根菜は 蜜蜂の匂いがした

シダ類の湿度の下に棲息する裸虫の息がかかっていた

 

人々を見下ろす先祖たちの肖像の向こうには

闇が在った

 

(1997.6.27)

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