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K.S.

 K.S.氏、女性、85歳、認知症、要介護4。この人のことを記しておきたい。

 4年前に出会った。大阪市港区・西区でホームヘルパーをしていた時の「利用者」である。排泄介助と食事介助を提供していた。

 春なのに、アパートの一室でずっと電気炬燵に入っておられた。ほぼ寝たきりで、全身の関節が硬くなって来ている様子。はじめまして、と挨拶すると、「おまえは誰や」。口が悪い、手にしていたパンを投げつける、でもほんとはいい人らしい。何回か通う内に打ち解けてきた。相変わらず口は悪いし、パンは投げる。

 エンシュアリキッド(カロリーメイトみたいなの)を1日に4缶(=1ℓ)、とスティックパン(棒状の菓子パン)少々のみを口にされる。もう少し食べたら? と言うと、パンを指し「にいやん(私のこと)も食え、にいやんが食うたら私も食う」。少し食べると、「もっと食え」。もうちょっと食べると、「食べてしまえ」。1本食べ終わると、「もう1本は雀にやって来い。チュンチュン鳴きよる」。表に出ると小さな公園があり、そこでパンを粉々にして撒くと雀たちが寄ってくる(こんなことして近隣の人らに怒られへんかな~まぁいいか)。雀にあげたよ、と言うと、「ほんまか」。ほんま。にこっとされる。試しにイチゴを買ってみた。顔をしかめ、「すっぱい~」。雪印のコーヒー牛乳だけは飲まれる。

 小さい頃は高知の浜辺で育ったと、その浜辺の唄を歌ってくれた。

 5月頃、炬燵に寝たきりよりはマシかと、ケアマネージャーと事務所とで相談し、レンタルベッドを導入した。だが、これは良くなかったかもしれない。何だか病人に見えてきた。

 7月、良かれと思って、ウインドファンを導入。本人は拒否していたのだが、真夏に冷房無しでは身体が持たないだろうと、無理やり説得した(私の言うことなら聞いてくれた)。でも、これも良くなかったかもしれない。7月末に風邪で発熱、数日入院される。病院から帰られると臀部に褥創ができていた。

 耳を疑ったのだが、「自宅に帰ったら褥創ができたとのことで、その治療のために再度入院されることになった」と、サービス提供責任者から聞いた。それから、ずっと入院生活が続く。一度見舞いに行った。熊の人形(といっても、顔は熊で、毛はなく、身体は人間みたいな感じ。20cm位)を買ってプレゼントした。顔を見せるなり、「おぉー」と笑顔。病院では悪態のせいで、厄介な患者と看做されているとも聞いた。握手をするとうれしそうにされる。いつもの会話をした。一人の熱心な看護師は二人の会話をカーテン越しに聞いていた。

 10月に、「老人病院」に転院したと聞いた。また見舞いに行った。今度も、顔を見せるなり笑顔で、「にいやん元気かあ」。熊の人形はなかった。しばらく話をして分かれる。その病院のいたるところで、死臭が感じられた。

 年が明けて、彼女の死を知らされる。ベッドも、ウインドファンも、良くなかったのだろう。私のせいかもしれない。

 もっと、笑顔を見ていたかった(彼女は実に気持ちよさそうに笑う)。気骨のある、気立てのいい、良い人であった。

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