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冥き途(くらきみち)

 ホームヘルパーをしていた時に、1人暮らしの認知症のおばあちゃんから梵字を見せられた。(その文字はうまくかけないのでここでは省略します)

 「これ何と読むの?」

 「わからないです。今度調べてきますね」

 で、大阪市立中央図書館で調べた。

 読みは「アーンク」。

 意味は・・「胎蔵界大日如来」を表わす。大日如来とは、密教の教主で本尊、宇宙の本性を人格化したもの。大日(Mahavairocana)とは太陽の別名であり、宇宙に存在するものすべてが大日如来のあらわれである。

 智慧の面を「金剛界」という。金剛(ダイヤモンド)のようにかたい智慧がすべての煩悩を打ち破る。真理の面を「胎蔵界」という。胎児が母の胎内にあるように、あるいは蓮の種がすでに花の中にあるように、真理がすべてのものに内在していることを示す。(「金剛界大日如来」は智をつかさどり、「胎蔵界大日如来」は理をつかさどる)

 調べたことを、わかりやすく説明し、説明したことを紙に大きい字で書いた。すると、今まで胸につかえていたものが取れたみたいで、とても喜ばれた。仏壇には、大日如来、不動明王、弘法大師(空海)があり、真言宗とのこと。なんでも「亡くなったうちの人」はお坊さんで、仏壇から先の梵字が出てきたらしい。それで、何だろうと、ずっと気になっていた、と。

 以来、私が訪ねるたびに、その紙を見せて嬉しそうにされる。ちょうどその頃、NHKの「日曜美術館」で高野山と空海の紹介があり(偶然の一致!)、ビデオにとったのを一緒に見たりもした。

 そのおばあちゃんが、私に本を貸してくれた。増田繁夫『冥き途 評伝和泉式部』世界思想社。「返さんでもええよ~」と。

 和泉式部の代表歌の一つが、

 冥きより冥き途にぞ入りぬべきはるかに照らせ山の端の月

 で、その歌の解説から始まり、当時の貴族社会、女性の地位、和泉式部の生涯を描いた作品である。

 「冥きより」の歌を、以来私は何度となく思い出しては、そのおばあちゃんのことを思い出している。私に本を渡されてから、しばらくして故郷の香川県に戻られ、その後のことは知らないのであるが…。そう言えば、空海も香川出身だったと、仰っていた。

 万葉集、古今集のことも、よく話されていた。「ひさかたの~」と言えば、「光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらん~」と継がれる。今思えば楽しいひと時であった。

 返しそびれた本を、ときどき開けると、おばあちゃんの笑顔が見える。

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