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人間の絆 Of Human Bondage(1915)

 S.モーム『人間の絆』(中野好夫訳・新潮文庫)を読んだ。

 孤児、蝦足で、はにかみ屋の少年が、ロンドンから60マイル離れた町に住む親類の牧師夫妻に育てられ、聖職者の子弟の通う学校で教育を受け、やがてそこを自主退学、ロンドンでの会計士見習い、ドイツ留学、パリでの画学生生活、ロンドンに戻っての医学生生活を経て、結婚するに至るまでの、精神の遍歴を描いた物語である。著者の自伝的作品(自伝ではない)と言われている。

 学友との不和、宗教への反発、詩人、画学生からの感化と離反(克服)、人生の意味、幸福を探し求める日々、そしてそれを見出す過程、が描かれている。

 大英博物館で墓石を見ていての、それを見出す場面、が最も印象に残った。

 〈……人生の意味など、そんなものは、なにもない。そして人間の一生もまた、なんの役にも立たないのだ。彼が生まれて来ようと、来なかろうと、生きていようと、死んでしまおうと、そんなことは一切なんの影響もない。生も無意味、死もまた無意味なのだ……彼は、喜びと満足に充ちた、長い呼吸をついた。跳び上がって、歌い出したいような気持だった。この数ヶ月、こんな幸福感を味わったことはなかった……幸福への願いを捨てることによって、彼は、いわば最後の迷妄を脱ぎ捨てていたのだった。幸福という尺度で計られていた限り、彼の一生は、思ってもたまらないものだった。だが、今や人の一生は、もっとほかのものによって計られてもいい、ということがわかってからは、彼は自然勇気の湧くのを覚えた……〉

 フィリップは内省の人である。真摯である。常に人生の意味を求めていた。にも拘らず、彼は様々な「不幸」を体験する、そして、ついに「人生は無意味」という結論に至る。

 その結論を「あたりまえ」と言ってしまうことはできない。彼にとっては、経験ゆえの結論であるから。結論は過程でもあるから。

 一切を受容する精神に辿り着く、そういう物語を描くということに、共感を覚える。多くの作家がそうであるように、S.モームは過程(細部)を描くことに専心した。この作品全体から、その情熱、が強く感じられる。

 過程の中でも、ミルドレッドというどうしようもない女に惹かれるフィリップ、は興味深かった。教養も、優しい心もない、家事もできない、金遣いは荒い女のために不幸になる。だが、そのようなフィリップに、私は好感を持った。

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